役員賞与引当金と事前確定届出給与について

令和X0年3月決算の会社で決算期末に役員賞与の見込み額として賞与引当金を300万円計上し、翌期に入って同額の事前確定届出を提出して300万円の賞与を支給した場合、損金に算入することができるのでしょうか?

事前確定届出給与とは、法人が役員に対して支払う給与のうち、事前に支給時期と金額を確定し、税務署に届け出たものを指します。これにより、役員賞与を損金算入できるため、法人税の節税効果が期待できます。

この制度を利用するには、以下の要件を満たす必要があります:

  • 株主総会などで支給時期と支給額を決定する
  • 決定後、一定期間内に税務署へ届出書を提出する
  • 届出通りの金額・時期で支給する

もし届出内容と異なる支給を行った場合、その年度の事前確定届出給与分すべてが損金不算入となるため、注意が必要です。

ポイントは『事前』に届け出るという箇所です。

この役員賞与はいつの職務執行期間に対するものか、ということです。これが当期の(つまり令和X1年中に始まる職務執行期間)であれば、当期首に『事前』に届け出を出しますので損金に算入できます。

しかし、前期(令和X0年)に役員賞与の見込み額として役員賞与引当金を計上している場合、前期の費用であることを会社が意思表示していることになります。翌期首(令和X1年)に事前確定届出を提出したとしても、それは『事前』ではなく『事後』ということになります。そのため損金算入することはできません。

※前期の実績をもとに翌期の賞与を算定することは全く問題はありません。

基本的には上記のような考え方でしたが、それを覆す裁決事例がありました。仙台国税不服審判所が令和5年2月3日、引当金処理をして支給した役員賞与を損金算入事前確定届出賞与として認める旨の裁決です。

その理由としては、取締役議事録にはいつの職務執行対価か明確に記載がないことなどにより事前確定届出給与が認められました。

 裁決事例があるものの、一般的には前期に役員賞与引当金を計上するのはやめた方がよいと考えます。引当金計上は会社の意思表示以外の何物でもないと思うからです。会計に携わる人間なら同じ気持ちではないかと思います(でなければ引当金を計上するのはその日の気分でしょうか?)。

また議事録等にいつの職務期間に対応する賞与なのかを明記することも非常に重要だと感じました。